会社設立の印鑑は何本必要?一人会社・従業員あり・電子契約中心で変わる本数の決め方

この記事で扱う印鑑
- 代表者印
- 銀行印
- 角印
- ゴム印
- 印鑑ケース
この記事が想定している読み手
- 印鑑の種類はわかったが、自分の会社に何本要るのかが決められない人
- 一人で会社設立をするので、3本セットや4本セットは多すぎないかと感じている人
- 社員や拠点が増えたとき、会社の印をどう増やし、どう管理するかを先に考えておきたい人
代表者印・銀行印・角印・ゴム印それぞれの役割は、同じ分類の「種類と役割」の記事で整理しています。
「法人の印鑑は3本が基本」。会社設立の解説ではよく見る一文ですが、社員ゼロで始める会社と、初日から経理担当がいる会社とで、同じ答えになるとは限りません。本数を決めるのは、印鑑の種類ではなく、その会社で誰が、どんな書類に、どれくらいの頻度で押すかです。
法務局への届出の対象は代表者印(会社実印)で、登記所に提出済みのものを届出印と呼びます。銀行印・角印・ゴム印の作成は任意ですが、口座や取引の条件に合わせて用意します。印章ははんこの道具、印影は紙に残った形。本稿の「印鑑」は日常の呼び方です。だからこそ、自分の会社の働き方に照らして本数を決める余地があります。4つの想定場面に分けて、検討する本数と、あとから足すタイミングを見ていきます。
本数を決めるのは「誰が・何に・どれくらい押すか」

会社の印鑑を複数持つ理由は、突き詰めると二つです。一つは、重い印を軽い用途に使わないことでリスクを分散すること。もう一つは、押す人や場面ごとに印を分けて業務を回しやすくすること。税理士法人の解説でも、法人が複数の印鑑を持つ理由として、この二つが挙げられています。
そこで、本数を決める前に三つの問いに答えてみます。
- 紙の書類に会社の印を押す回数は、月に何回くらいか(請求書・見積書・申込書など)
- 代表者以外に、会社の印を押す人はいるか(経理担当・事務担当・拠点の責任者)
- 法人口座はいくつ開くか。取引先や金融機関から印鑑証明書を求められそうか

三つの問いの答えが「少ない・いない・一つ」なら本数は少なくて済み、「多い・いる・複数」なら分ける価値が出てきます。以下、それぞれの場面を具体的に見ていきます。
たとえば見本商事株式会社が、会社設立の時点で「請求書は月に10通ほど紙で郵送、押すのは代表者と経理担当の2人、口座は1つ」と答えたとします。この場合、代表者印・銀行印・角印の3本を作り、押印・送金の承認手順を決めたうえで銀行印を経理担当に預ける、という運用が考えられます。同じ会社でも、請求書をすべて電子で送るなら角印は後回しにできます。問いへの答えが変われば、本数も変わるということです。
※1出典:税理士法人ベンチャーサポート「法人印とは?印鑑の種類や会社での使い分け・それぞれの役割の違いを解説」(ベンチャーサポート税理士法人・確認日 2026年10月12日)
一人で会社設立をするなら:1〜2本から始めてよい

社員を置かず、代表者一人で会社設立をするケースを考えます。印を押すのは自分だけ、保管するのも自分だけ。この場合、印を分けても「持つ人を分ける」効果は生まれません。残るのは、紛失や盗用のときに被害を小さくする、という効果だけです。
代表者印の届出が必要かを先に確認します。登記を書面で申請するなら、申請書に押すために届け出なければなりません。オンライン申請では提出は任意ですが、代理人への委任状を紙で提出する場合は届出印が必要です。必要な電子署名と添付情報をそろえ、紙の委任状を使わない方法とは分けて考えます。法人の印鑑証明書を求められる見込みがあれば、代表者印を作って届け出る準備をします。
2本目の候補は銀行印です。法人口座の申込みで届出印が要るかは、金融機関と口座商品によります。届出印の登録が不要な法人口座もあるため、まず公式の必要書類を確かめます。代表者印と兼ねることもできますが、ネットバンキングで日々の振込を済ませる一人会社でも、届出印を使う口座では、名義変更などの紙の手続きに印を求められることがあります。代表者印と分けておけば、どちらか一方をなくしても、もう一方の印を必要とする手続きへの影響を抑えやすくなります。
一人会社で3本セットを買うのが間違い、というわけではありません。セットのほうが割安なこともあり、ケースや朱肉が付いてくる利点もあります。ただ「セットだから3本」ではなく、「3本とも出番があるか」で判断するほうが、使わない印を引き出しで眠らせずに済みます。
一人会社でも分けておきたい場面
一人会社でも、家族や外部の人に用事を頼むことがあるなら話は別です。たとえば記帳や振込の手続きを家族に手伝ってもらう場合、銀行印だけを渡せるようにしておけば、会社実印を家の中で持ち回さずに済みます。印を分ける効果は、持つ人が二人以上になった瞬間から生まれます。
※2出典:法務省「商業登記規則が改正され,オンライン申請がより便利になりました(令和3年2月15日から)」(法務省・確認日 2026年10月12日)
経理や事務の担当者がいる会社:3本で「持つ人」を分ける

会社設立の時点で経理や事務の担当者がいるなら、3本に分ける意味がはっきり出てきます。印を「種類」ではなく「持つ人」で分けられるからです。
典型的なのは、代表者印は代表者が金庫で管理し、銀行印は経理担当が預かり、角印は事務担当が日常の書類に押す、という分担です。こうしておけば、承認済みの範囲内の日常書類を担当者が処理しやすくなり、一方で会社の意思を示す重い印は代表者の手元から動きません。

銀行印について、日本貿易振興機構(JETRO)は、法人口座の一般的な必要書類に銀行印を挙げたうえで、印鑑登録した印章を銀行印として流用することも通常は可能だと説明しています。兼用はできる、それでも分けるのは、経理担当に会社実印まで預けずに済むからです。
印を分けたら、その分担を紙に書いておきましょう。担当者が替わったとき、休んだとき、誰がどの印を引き継ぐのかがはっきりしていれば、印が行方不明になる事態を避けられます。
銀行印を預けていた経理担当が退職したら?
印そのものを返してもらえば、銀行印を変える必要は必ずしもありません。返却の確認ができない、複製の心配があるといった事情があれば、金融機関に届出印の変更を申し出ます。手続きは金融機関ごとに違うので、取引先の窓口で確かめます。
角印は何人で共有してもよいですか?
共有人数だけで使い方は決まりません。社内の権限や契約条件を確認し、共有するなら、置き場所と押してよい書類の範囲を決めておくと、誰が押したか分からない書類が出回るのを防げます。
※3出典:JETRO「Section 1. 登記(参考情報)」法人口座開設(日本貿易振興機構(JETRO)・確認日 2026年10月12日)
拠点が多い・記名が多い会社:ゴム印と拠点ごとの印

店舗や営業所が複数ある会社、毎日たくさんの申込書や伝票に社名と住所を書く会社では、4本目以降を検討する価値があります。ここで増やすのは、届出のない角印とゴム印です。
ゴム印は社名・住所・電話番号などを手書きする代わりに押す道具なので、記名の量に比例して出番が増えます。拠点ごとに住所が違えば、拠点の数だけ住所印が要ることもあります。角印も、拠点ごとに日常の書類を出すなら、拠点に1本ずつ置く会社があります。

一方、代表者印は拠点の数に合わせて増やすものではありません。法務局に届け出る会社の印は代表者が出すもので、営業所の数とは結びついていないからです。拠点の責任者に会社の代理権を持たせて登記する「支配人」を置いた場合には、商業登記規則上、支配人も自分の印鑑を登記所に提出することができます(規則9条1項3号)。ただしこれは登記の手続きを伴う話で、拠点が増えたら自動的に印が増える、という仕組みではありません。
本店を移すとゴム印は作り直しになります。会社設立の直後で、本店の移転を近いうちに考えているなら、住所入りのゴム印は移転後に作る、という順番も合理的です。
記名の多い職場では、社名・住所・電話番号の行が分かれていて、必要な行だけ組み合わせて押せるゴム印もよく使われます。拠点ごとに住所の行だけ差し替えられるので、拠点が増えるたびに一式を作り直す手間を減らせます。
※4出典:商業登記規則|e-Gov 法令検索(e-Gov(デジタル庁)・確認日 2026年10月12日)
電子契約が中心の会社:代表者印1本でどこまで回るか

契約書は電子契約サービス、請求書はPDF、口座はネットバンキング。最近は、紙に押す場面がほとんどない運用を想定してみます。この場合、最初は代表者印1本で始めるという選択も現実的です。
押印と契約の関係について、内閣府・法務省・経済産業省のQ&Aはこう整理しています。
特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。
契約が押印で成り立つわけではない以上、電子契約中心の会社が紙の印を何本も持つ必要はありません。とはいえ、取引先が紙の契約書を望むこともあれば、金融機関や役所の手続きで会社の印と法人の印鑑証明書を求められることもあります。代表者印を作って届け出ておけば、印鑑証明書の請求に進めます。ただし印鑑カードの交付や証明書取得にかかる時間は別に見込む必要があります。
注意したいのは、電子契約の画面に表示する印影の画像(いわゆる電子印鑑)と、電子署名法にもとづく電子署名、登記所が発行する商業登記電子証明書が、それぞれ別物だということです。印影の画像を作ったから紙の印鑑が要らなくなる、という関係ではありません。違いは電子印鑑と電子署名の分類で比べています。
電子契約中心の会社でも、会社設立の直後に紙の書類が必要かは確認しておきます。JETRO の案内は、法人口座の開設の一般的な必要書類として、登記事項証明書と並んで「法人の印鑑登録証明書」と「銀行印」を挙げています。口座を開くまでは代表者印と銀行印の兼用でしのぎ、紙の手続きが落ち着いてから本数を見直す、という進め方もあります。
※5出典:内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」(令和2年6月19日)(内閣府・確認日 2026年10月12日)
本数を増やすほど要るのは「管理のルール」

印を3本、4本と増やすと、紛失や無断使用のリスクを分散できる反面、管理する対象も増えます。どの印を誰が持っているか分からない状態は、1本で全部を兼ねるよりも危うい、とさえ言えます。
会社によっては、印章の扱いを社内規程(印章管理規程)にまとめています。契約書の解説サイトでは、規程に定める項目として次のようなものが挙げられています。
- 印章の定義と種類
- 印章の管理責任者
- 印章を使用する範囲
- 印章の作成・改印・廃印
- 使用するときの手続き
- 持ち出しのルール
- 紛失・盗難のときの対処
小さな会社が最初から立派な規程を作る必要はありません。押印の記録をノートに残す、代表者印と銀行印は鍵のかかる場所に別々にしまう、持ち出すときは声をかける。こうした基本を出発点に、送金や契約の権限、書類の重要性に合わせてルールを整えます。
| 印 | 持つ人 | 置き場所 | 記録 |
|---|---|---|---|
| 代表者印 | 代表者 | 鍵のかかる金庫 | 押した日・書類名・相手先 |
| 銀行印 | 経理担当 | 通帳と別の鍵付き引き出し | 使った手続きの名前 |
| 角印 | 事務担当 | 事務所の決まった場所 | 承認者・使用者を記録 |
| ゴム印 | 使用を認めた担当者 | 社内で決めた保管棚 | 使用範囲と持出先を管理 |
印鑑ケースの選び方や保管場所の工夫はケース・保管・管理の分類、紛失したときの手続きは紛失の分類にまとめています。
※6出典:マネーフォワード クラウド契約「印章管理規程とは?雛形を基に定めるべき項目を解説」(株式会社マネーフォワード・確認日 2026年10月12日)
あとから足す順番:会社の成長に合わせた一例

最初に作らなかった印は、必要性が分かった時点で、納期を確認して追加します。架空の見本工房合同会社を例に、会社設立から数年の間に印が増えていく流れを追ってみます。

この流れで大切なのは、各段階で「その印を誰が持つか」を一緒に決めていることです。角印を作ったのは、請求書の押印を社員に任せるため。印を増やす理由が、仕事を人に渡すことと結びついています。
反対に失敗しやすいのは、セットで買った印のうち、使わないものを放置するパターンです。誰も管理していない銀行印が引き出しに残っていると、紛失に気づくのも遅れます。使う予定のない印は、作らないか、作ったなら保管場所だけでも決めておくのが安全です。会社設立のときに勢いで買ったセットの中身を、一度棚卸ししてみるのも手です。角印を日常の書類に使う場面は、起業向けの解説でも、領収書などの会計書類のような日常業務の書類が例に挙げられています。
※7出典:Square 起業ガイド「代表者印とは?4つの種類と役割、作成方法、印鑑登録」(Square・確認日 2026年10月12日)
まとめ:会社設立の印鑑の本数は、仕事の渡し方で決まる

会社設立で作る印鑑の本数に、全員共通の正解はありません。法令が求めるのは、書面で登記を申請する場合などの代表者印の届出だけ。あとは、誰が、何に、どれくらい押すかで決まります。
- 一人で始める会社:代表者印から。銀行印は口座を開く前に
- 担当者がいる会社:代表者印・銀行印・角印の3本で、持つ人を分ける
- 拠点や記名が多い会社:ゴム印や拠点ごとの角印を足す。代表者印は増やさない
- 電子契約が中心の会社:0〜1本から検討。登記・口座・取引先の条件を確認
- 本数を増やしたら、保管場所と押印の記録をセットで決める
法人の印鑑証明書は、印鑑を登記所に出した人しか請求できません(商業登記法12条)。本数を絞る会社でも、代表者印だけは作って届けておくと、急に証明書を求められたときに慌てずに済みます。
そして、本数は一度決めたら終わりではありません。社員が増えた、拠点ができた、電子契約に切り替えた。会社の働き方が変わるたびに、印の本数と持つ人の割り振りを見直してください。印を足すときは役割を、減らすときは廃棄や届出の変更を、それぞれ忘れずに。
3本セットと4本セットの中身の違いはセットの分類、それぞれの印の役割は代表者印・銀行印・角印・ゴム印の各分類で扱っています。
※8出典:商業登記法|e-Gov 法令検索(e-Gov(デジタル庁)・確認日 2026年10月12日)
来年の今ごろ、会社には何人いて、請求書は誰が出しているでしょうか。代表者印の横に自分の名前、銀行印の横に経理を任せたい人の名前、角印の横に事務を頼む人の名前。名前が書けない印は、注文の前に用途と管理者を決める必要がある印です。

