会社設立の定款に関わる印鑑の区別|発起人の押印と、法務局へ届け出る法人の印鑑

この記事で扱う印鑑
- 代表者印
- 印鑑届書
- 印鑑証明書
- 電子印鑑・電子署名
- 定款の押印欄の前で、「これは会社の印なのか」とペンが止まった人
- 代表者印を頼む前に、定款や申請書に押す印との線引きを頭に入れておきたい人
- 発起人が会社になる設立や合同会社で、どの印が要るのか見当がつかない人
定款の中身の書き方や、押印欄の具体的な押し方は扱いません。印鑑の区別だけを取り上げます。
会社設立の準備では、定款、登記申請書、印鑑届書と、押印を求められる書類が立て続けに出てきます。どれも「はんこを押す」点は同じなので、同じ印鑑を使うものと思い込みやすいところです。ところが、書類ごとに押す人も、根拠になる法令も、法務局との関わり方も違います。
先に結論の形だけ書いておきます。法務局へ届け出る対象になる印鑑は、代表者印(会社実印)の1本だけです。定款に押す印は、会社法が「署名し、又は記名押印」と定めている発起人(合同会社では社員となる予定の人)の側の話で、会社がまだ成立していない段階のものです。この2つは、並べて眺めるとはっきり別物だと分かります。
言葉も整理しておきます。印材などの道具は「印章」、紙に押された跡は「印影」、日常では両方を指して「印鑑」と呼びます。法務局に届け出た印は、代表者印・会社実印・届出印と、場面によって呼び名が変わります。混ざりやすい印鑑のうち、条文と公的機関の案内で確かめられたものだけを、次に並べます(確認日は2026年10月23日)。
第一項定款に押す印と法務局へ届け出る印は、土台からして別物

会社設立で一番はじめに引いておきたい線は、「法律上の届出の対象になる印鑑」と「それ以外」の線です。法務局に提出するのは代表者印だけで、銀行印や角印、ゴム印は任意で作る印です。定款に押す印は、この4種類のどれにも自動的には当てはまりません。押す人が会社ではなく、これから会社を作る人だからです。
株式会社の定款を定める会社法26条1項は、作成の主役を発起人に置いています。署名か記名押印をする人も、発起人全員です。会社が主語でない点に注目してください。
| 比べる点 | 定款に押す印 | 法務局へ届け出る印 |
|---|---|---|
| 押す人 | 発起人(合同会社は社員となる予定の人) | 会社の代表者 |
| 根拠の例 | 会社法26条1項・575条1項 | 商業登記規則9条 |
| 作る時期 | 会社の成立前 | 設立登記の申請に合わせて届け出る |
| 法務局への届出 | 定款の印そのものを届け出る仕組みではない | 書面申請では必要、オンライン申請では任意 |
右列の届出印には寸法の縛りがあります。商業登記規則9条3項は、1cm角に収まるものと3cm角に収まらないものを排除し、4項は照合に適することを前提に置きます。対して会社法26条・575条を探しても、定款に押す印の大きさや種類を決めた文言は出てきません。
もっとも、条文に出てこないのは自由の保証とは違います。公証役場が発起人の印鑑登録証明書を集めるなど、手続のほうに条件が置かれているからです。読み切れない部分は、定款の案内(S-19の担当)と認証先の公証役場へ。
※1出典:e-Gov法令検索「会社法」(平成十七年法律第八十六号)(デジタル庁(e-Gov)・確認日 2026年10月23日)
第二項代表者印・会社実印・届出印と、発起人の実印は何が違うか

会社の側の言葉から。法務局に提出した印鑑は、代表者印、会社実印、届出印と呼ばれます。どれも同じ1本を指し、書類や会話の都合で呼び分けているだけです。銀行に届けた印を「銀行届出印」と呼ぶことがあるので、「届出印」だけだと法務局のことか銀行のことか迷う場面があります。
個人側の言葉も確認します。市区町村に登録した印が個人の実印で、印鑑登録証明書と一組で使います。発起人が定款に押す印を「実印」と案内する資料が目立つのは、認証の際に登録証明書が要るためでしょう。ただし、この実印は個人の登録印であり、会社実印とは持ち主も登録先も異なります。
- 代表者印(会社実印・届出印)
- 会社の代表者が法務局に提出する印鑑。会社が成立してから、法人の印鑑証明書の対象になる
- 発起人の実印
- 個人の発起人が市区町村に登録している印。証明書は市区町村が発行する
- 認印
- 登録をしていない印。日常の受領印などに使う
- 銀行印・角印・ゴム印
- 会社が任意で作る印。法務局への届出の対象ではない
会社設立の準備では、会社の印鑑が先か定款が先かで悩む人もいますが、順番としては定款のほうが早く動きます。定款を作って認証を受け、それから登記の申請に進み、その申請に合わせて代表者印を届けます。つまり、まだ届出印が手元にない時期に定款の押印を終える人が大半です。届出印を注文し終えていなくても、定款の作業が止まるわけではありません。
代表者印と個人の実印の関係を詳しく知りたいときは、代表者印と実印の分類にまとめています。発起人本人が個人の実印を会社の届出印にも使えるのかという別の問いは、個人の印鑑に関する分類のほうが近い内容です。
※2出典:商業登記規則|e-Gov 法令検索(e-Gov(デジタル庁)・確認日 2026年10月23日)
第三項株式会社と合同会社で、定款の押印と認証はどう違うか

会社設立の手順は、株式会社か合同会社かで定款のところから分かれます。根拠は前者が会社法26条1項、後者が575条1項。作った人全員が署名するか、記名して押す。ここまでは同じです。署名だけで済むのか、記名押印まで要るのかは、条文がどちらも見込んでいます。
差を生むのは公証人が出てくるかどうか。認証を経ない株式会社の定款には効力がなく(会社法30条1項)、合同会社ではこの段階そのものが要りません(法務省の手続案内)。役場へ証明書を携えて行く段取りは、株式会社だけの作業です。

合同会社には認証の場面がなく、定款の印の基準は外から見えにくくなります。社員のうち一人は実印、もう一人は認印という具合にばらつくと、金融機関に定款の写しを出す日に説明が苦しくなりがちです。条文は許していても、社内で一つに決めておけば後がすっきりします。
代表社員が法人で職務執行者を置くケースは、届出書類が変わる別の論点で、職務執行者の印鑑届の記事に譲ります。
※3出典:法務省「合同会社の設立手続について」(法務省・確認日 2026年10月23日)
第四項公証役場の定款認証で求められる印と証明書:発起人が法人のとき

公証人連合会の必要書類ページ、Q5の見出しは「書面による会社の定款の認証」。発起人だけで定款を作って公証役場へ行くなら、持参するのは定款3通(公証役場用・法務局用・会社保管用が多い)と、全員分の印鑑登録証明書とされます。
法人の印鑑が出番を迎えるのは、発起人に会社が含まれるときです。案内は、個人の登録証明書の代わりに、その会社の代表者印の印鑑証明書と、登記事項証明書(または資格証明書)を挙げています。個人は市区町村、法人は法務局と、証明書の出どころが分かれる形です。

代理人へ任せる場合は委任状も要ります。個人の発起人なら実印、法人の発起人なら代表者印を押す決まりです。証明書の期限は発行後3か月。窓口へ取りに行く日は、認証の予約から数えて組み立てます。
ここまでが書面認証の案内に載っている内容です。電子定款の認証や、役場ごとの運用差は裏が取れていないので触れません。予約方法や細かな書類は、受ける公証役場へ問い合わせるのが近道です。
法人の印鑑証明書の取り方(窓口・郵送・オンライン、印鑑カード)は印鑑証明の分類へ。なお、発起人になる会社は、すでに登記された会社であることが前提です。
※4出典:日本公証人連合会「公証事務 必要書類」(Q5 書面による会社の定款の認証)(日本公証人連合会・確認日 2026年10月23日)
第五項書面とオンラインで変わること:印鑑の提出が任意になる範囲

代表者印を法務局へ出すかどうか。オンラインで会社設立の登記を申請する人は、ここを選べます。法務省が案内する任意化の始まりは令和3年2月15日で、書面での申請なら従来どおり提出が必要です。
誤解されやすいのは「オンラインなら印鑑はいらない」という聞こえ方でしょう。緩んだのは法務局への提出だけで、定款の側は別の扱いです。会社法26条2項は電磁的記録での定款作成を認め、その場合は署名・記名押印に代わる措置を取るよう定めます。紙の押印が消えたのではなく、電子的な手当てに置き換わる構図です。

法務省が公開している押印の要否の一覧には、押印を要する添付書面の例として定款が入っています。定款の押印が見直しの対象外だったことを示す記載で、押印が省略できる書面と省略できない書面が、同じ登記の手続の中に併存している様子が分かります。
電子の話をするなら、画像の電子印鑑と電子署名は別のものです。電子印鑑は印影を画像にしたもので、電子署名法にもとづく電子署名のように、本人性と非改ざんを確かめる仕組みを備えているとは限りません。電子定款で求められる措置が何に当たるかは、法務省令の定めに従うため、画像を貼れば足りると考えないでください。違いは使い分けの分類で整理しています。
電子定款のほか、定款の認証と設立登記を同日にオンラインで申請する扱いも、法務省が案内しています。手順や電子証明書の種類は、S-19の定款の案内に譲ります。
※5出典:法務省「商業登記規則が改正され,オンライン申請がより便利になりました(令和3年2月15日から)」(法務省・確認日 2026年10月23日)
第六項迷いやすい点を3つ:法務局に届けた印と定款の印は同じでなければならないか

会社設立の場面で出やすい疑問を3つ取り上げます。いずれも、確認できたことと確認できなかったことを分けて書きます。
Q. 定款に押した印と、法務局に届ける代表者印は、同じ印でなければなりませんか?
A. 会社法26条・575条には、定款に押す印を代表者印と同じにすることを求める文言が見当たりません。したがって「同じでなければならない」とは書けません。逆に「別にしなければならない」とも書けないので、どの印を使うかは、認証先の公証役場か定款の案内(S-19)で聞いてください。
Q. 定款に押す印は、あとで法務局に届け出る代表者印として使えますか?
A. 届出印の条件は、商業登記規則9条3項の大きさと、4項の「照合に適するもの」です。この条件を満たす印であれば、どの印を選ぶかは提出する側の判断になります。ただし、個人の印と会社の印を兼ねると管理で困る場面が出ます。詳しくは個人の実印の兼用の記事を参照してください。
Q. 「押印不要」と聞きましたが、定款も押さなくてよいのですか?
A. 内閣府・法務省・経済産業省の押印Q&Aは、契約の話をしています。契約は、特段の定めがない限り、押印がなくても成立し効力も変わらない、という整理です。定款は、会社法26条1項が署名か記名押印を求める書面で、法務省の一覧でも押印を要する書面に入っています。契約書の話をそのまま当てはめないでください。
3つ目の誤解は、とくにオンライン申請の広まりとともに増えました。「印鑑の提出が任意になった」「契約書に押印は必須でない」という2つのニュースが、定款の押印にも当てはまるかのように伝わってしまうのです。どちらも別の制度の話で、定款には会社法という個別の定めがあります。
登記申請書の押印にも一言。商業登記規則35条の2第1項は、申請人や代表者が申請書に押す際、登記所へ提出済みの印を使う決まりです。ここでは届出印の出番です。申請書への押印の細かな扱いは、設立登記の書き方(S-19の担当)に譲ります。
※6出典:法務省「申請書、各添付書面等の押印の要否について(商業・法人登記)」(法務省・確認日 2026年10月23日)
第七項個人の印鑑証明書は、位置づけだけを示す

個人の印鑑登録証明書は市区町村、法人の印鑑証明書は法務局。発行元から別です。誰の分を何通いつ用意するかの一覧は、会社の形で変わるためここでは作らず、会社設立の書類全体はS-27(会社設立 必要書類)の領分とします。
もう一つ、別の押印の話が登記の側にあります。設立登記の添付書面である就任承諾書には、押した印を裏づける市町村長発行の証明書が要る場面があり、根拠は商業登記規則61条の4項と5項です。会社を置く形が取締役会設置かどうかで、証明の対象者が設立時取締役か設立時代表取締役かに分かれます。
定款認証の場で使う証明(公証役場)と、就任承諾書の押印を裏づける証明(登記の申請)は、場面も根拠も違います。片方があれば他方は不要、とは言い切れません。書類ごとに根拠を切り分ける癖をつけると混乱しにくく、例外が書かれた条文もあるので、自社の場合は法務局か専門家に当たってください。
- 定款の認証:発起人の印鑑登録証明書(株式会社・書面の場合の案内)
- 設立登記の添付書面:就任承諾書に押した印の証明書(規則61条4項・5項)
- 会社の代表者印:書面申請では届出、法人の印鑑証明書は届出のあとに請求
自分が発起人か、取締役か、代表取締役か。役割を書き出し、役割ごとに証明書の要否を当てはめるのが確実です。S-27の案内と、法務局の最新の様式を見比べてください。
※7出典:商業登記規則|e-Gov 法令検索(e-Gov(デジタル庁)・確認日 2026年10月23日)
第八項まとめ:定款の印と代表者印を混ぜずに、順番で整理する

会社設立の印鑑をここまで一言ずつにすると、こうなります。定款に押すのは発起人(合同会社なら社員となる予定の人)で、根拠は会社法。法務局へ届けるのは代表者印で、根拠は商業登記規則。押す人も、拠り所となる法令も、別々です。
- 届出の対象は代表者印だけ。銀行印・角印・ゴム印は任意
- 株式会社の定款は公証人の認証が必要、合同会社は不要
- 認証では発起人の印鑑登録証明書。発起人が法人なら代表者印の印鑑証明書と登記事項証明書など
- オンラインで任意になったのは法務局への印鑑提出。定款の署名押印の定めは残る
- 定款の印を代表者印に揃えるべきかは条文で確認できないので、認証先に確認
会社設立の準備に追われるなかで、すべてを一度に決める必要はありません。定款の作業を進めつつ、代表者印は印鑑が必要かどうかの分類と登録(届出)の分類で、届出の方法と時期を決めていけば間に合います。
様式や取扱いは改まることがあります。動き出す直前に法務局と公証役場のページを開き直してください。本文の確認日は2026年10月23日です。
※8出典:法務省「オンラインによる印鑑の提出又は廃止の届出について(商業・法人登記)」(法務省・確認日 2026年10月23日)
押す前に、「誰の印か」を書き出してみる
定款、認証、登記申請書、印鑑届書。メモ帳に、書類名・押す人・使う印・添える証明書の4列を作ってみます。埋まらない欄と「たぶん同じ」で済ませた欄が、公証役場や法務局へ尋ねる項目になります。

