オンライン申請で印鑑を届け出なかった会社へ|あとから出す方法と電子証明書との関係

この記事で扱う印鑑
- 代表者印
- 印鑑届書
- 印鑑証明書
- 電子印鑑・電子署名
- 登記をオンラインで済ませ、会社の印鑑は法務局に届け出ないまま設立した
- 取引先や金融機関に法人の印鑑証明書を頼まれ、届出の欄を「無」にしたことを思い出した
- マイナンバーカードや商業登記電子証明書があれば、会社実印は要らないのかを知りたい
「そもそも会社設立に印鑑は必要か」という総論は、同じ分類の解説を参照してください。本稿は「届け出なかったその後」に絞った続編です。
後日届け出る対象は代表者印、いわゆる会社実印です。登記所に提出してあるものを届出印と呼びます。銀行印・角印・ゴム印を作るかは任意で、これらをまとめて法務局へ登録する制度ではありません。はんこの道具が印章、紙に残る形が印影。本稿では一般的な呼び方の「印鑑」を使い、代表者印の届出について考えます。
次は架空の例です。見本商事株式会社の代表、見本太郎さんは、電子定款とオンライン申請で会社設立を終えました。印鑑の提出は任意と聞いていたので、届出の欄は「無」。半年ほどして、新しい取引先から契約書と一緒に「法人の印鑑証明書を1通」と頼まれ、そこで初めて手が止まりました。
オンライン申請なら印鑑の届出をしなくても設立できる一方、届け出ていないと利用できない書類や手続きがあります。以下、届出をしなかった会社があとから会社の印鑑を法務局に出すときの方法と、電子証明書との使い分けを、法務省・法務局の案内と商業登記規則の文言に沿って追います。申請をオンラインで送っても、代理人への委任状を紙で提出する場合は届出印が必要になる点が分かれ目です。
1届出をしないで会社設立したあと、つまずくのはどこか

令和3年2月15日から、登記をオンラインで申請する場合は、登記所への印鑑の提出が任意になりました。必要な電子署名や添付情報を整え、紙の委任状を提出しない方法なら、代表者印を届け出ずに会社設立を進められます。登記完了後の登記事項証明書と、届出印を証明する法人の印鑑証明書は別の書類です。前者を取得できるから後者も発行される、とは考えないようにします。
つまずきやすい場面は、大きく分けて三つあります。一つ目は、法人の印鑑証明書を求められたとき。二つ目は、役員の変更や本店移転などの変更登記を、紙の申請書や紙の委任状で出そうとしたとき。三つ目は、商業登記電子証明書を書面で申し込もうとしたときです。どれも「登記所に出した会社の印鑑」があることを前提に組み立てられた手続きなので、届出がないと入口で止まります。
- 法人の印鑑証明書:届け出た人しか請求できない
- 紙の変更登記:申請書や委任状に、登記所に出した印鑑を押す決まり
- 電子証明書の書面申請:申請書に届出印を押して本人確認をする
逆に言えば、この三つのどれにも当面かかわらない会社なら、届出なしでも日々の業務は回ります。法人口座の開設で法人の印鑑証明書を求める金融機関もあるので、口座がまだなら、その時点で一つ目の場面にぶつかる可能性があります。気づいたタイミングで落ち着いて手順を踏めば、届出はいつでもできます。会社設立から何年たっていても、期限切れで出せなくなる、という仕組みにはなっていません。順に見ていきます。
※1出典:法務省「商業登記規則が改正され,オンライン申請がより便利になりました(令和3年2月15日から)」(法務省・確認日 2026年10月12日)
2届け出ていない会社には出せない書類:印鑑証明書と紙の登記申請

法人の印鑑証明書について、商業登記法12条は請求できる人を「その印鑑を登記所に提出した者」と書いています。届出をしていない会社の代表者は、この条件にそもそも当てはまりません。窓口の申請書でもネット経由の請求でも、証明すべき印鑑の記録がないので発行されない、という理屈です。
紙で登記を申請する場合のルールは、商業登記規則のほうにあります。
申請人又はその代表者が申請書に押印する場合には、登記所に提出している印鑑を押印しなければならない。
同じ条の2項は、代理権を示す委任状の押印も対象にしています。司法書士に変更登記を頼み、委任状を紙で渡すなら、その委任状に押すのは届け出た会社実印に限られます。届出のない会社は、このままでは紙の委任状を作れません。

変更登記をオンラインで送信する場合でも、司法書士などに紙の委任状を渡し、それを登記所に持参・郵送するなら届出印が必要です。電子署名を用いて委任情報までオンラインで提出する方法とは区別します。依頼前には「申請をネットで送りますか」だけでなく、「私が渡す委任状は紙ですか、電子データですか」も確かめると、会社設立時の選択と今必要な準備をつなげて考えられます。
※2出典:商業登記規則|e-Gov 法令検索(e-Gov(デジタル庁)・確認日 2026年10月12日)
3あとから印鑑を出すなら書面だけ:単独のオンライン提出はできない

オンラインで設立したのだから届出もネットで、と考えたくなりますが、ここに制限があります。法務局の「よくあるご質問」は、印鑑の提出方法を二つ挙げたうえで、こう続けています。
(2)の方法は、オンラインによる登記申請と同時に行う場合のみ可能です。印鑑のみを単独で管轄の法務局に提出する場合等には、オンラインによる提出ができないので、(1)の方法で提出を行ってください。
(1)の方法とは、届書と添付する本人の証明書を紙でそろえ、本店の管轄へ持参・郵送する方法です。設立のあとに印鑑だけを出したい会社は、この書面の方法一択です。窓口に行けない日が続くなら、郵便で送る手もあります。
どこへ出すかも大事なところ。届出の宛先は、本店所在地を受け持つ法務局(支局・出張所を含む)です。法人の印鑑証明書は全国どこの登記所でも取れるのに、届出のほうは管轄が決まっている。自宅近くの法務局が本店の管轄とは限りません。出かける前に、本店の住所で管轄を調べておけば無駄足になりません。
Q. 会社設立のときに申請を頼んだ司法書士に、あとの届出も任せられますか?
A. 印鑑の提出は代理人によってもできると商業登記規則9条の6に定めがあります。代理人に頼むときは、届書の委任状欄に代表者が個人の実印を押して渡します。費用の取り決めは依頼する事務所との話になります。
Q. 会社設立の登記をオンラインでした管轄と、届出先は同じですか?
A. 本店を移していなければ同じです。設立後に本店を別の管轄へ移した会社は、移転後の本店の管轄が届出先になります。
※3出典:法務局「よくあるご質問等<商業・法人登記関係>」(法務局・確認日 2026年10月12日)
4後日の届出で用意するもの:印鑑届書と代表者個人の印鑑証明書

使う様式は「印鑑(改印)届書」です。法務局のホームページに様式と記載例があり、ダウンロードして印刷すればそのまま使えます。届書には、会社の印影用の枠と、提出者の本人確認用の欄が設けられています。
添付証明書は代表者本人のもので、作成から3か月以内という条件を満たす必要があります。取得したら、発行日と届出予定日を照合してください。ここでは法人の届書と添付書類を組み合わせる際の注意を確認します。

届書には、会社の商号・本店・代表者の資格や氏名・会社法人等番号を記入する欄があります。会社設立後の届出では、これらを手元の登記事項証明書と照合してから書き込みます。様式の注記には、本人の住所・氏名が登記簿と一致しない場合は変更登記が必要とあります。旧住所のまま届け出てよいと自己判断せず、先に登記所へ相談するほうが、差し戻しの理由を減らせます。
本人が届ける場合と代理人が届ける場合では、記入する欄が違います。代理提出のときは届書の委任状欄に必要事項を書き、本人が市区町村に登録した印を押します。代理人自身の押印は不要と様式に明記されています。また、既に登記申請へ添付した証明書を援用できるのは登記申請と同時の届出に限られます。後日の単独提出では、以前の申請に添えた書類がそのまま使われる前提で準備しないことが大切です。
※4出典:法務局「印鑑(改印)届書」様式(PDF)(法務局・確認日 2026年10月12日)
5次の変更登記と同時に出すという選択肢

急ぎでなければ、もう一つの道があります。役員の任期満了による重任や本店移転など、次に変更登記をするタイミングで印鑑も一緒に出す方法です。
登記をオンラインで申請するなら、その申請と同時に限って、印鑑届書もオンラインで出せます。法務省の案内によれば、専用の様式を1cmごとの目盛りが付いたまま拡大・縮小せずに印刷し、物理的な印章で鮮明に押して、原寸で600dpi程度の解像度でスキャンしたPDFを作る、という手順です。PDFを作るだけでは提出できず、届書データには印鑑作成者の電子署名を付け、使用可能な電子証明書を送信する必要があります。紙で変更登記を出すなら、申請書に押す届出印がそもそも必要なので、印鑑届書を申請書に添えて同時に出す形になります。法務局のFAQも、印鑑の提出を登記の申請と同じ機会に行うことを認めています。

ただ、変更登記がいつ来るかは会社によってまちまちです。株式会社の取締役の任期は定款で長く設定していることも多く、何年も変更登記がない会社もあります。取引先を待たせている状況なら、変更登記を待たずに単独で紙の届出をするほうが早く片づきます。
いずれの方法でも、届け出る会社の印鑑そのものは先に手元にないといけません。会社設立の際にはんこを作らなかった会社は、まず代表者印を用意するところからです。大きさの決まりはサイズ規定の分類、代表者印の役割は代表者印と実印の分類にまとめています。
※5出典:法務省「オンラインによる印鑑の提出又は廃止の届出について(商業・法人登記)」(法務省・確認日 2026年10月12日)
6電子証明書があれば会社実印の代わりになるのか

会社設立のオンライン申請では、利用可能な電子証明書を確認して電子署名を付けます。利用できる証明書の範囲は2021年2月15日の制度変更で広がっています。法務省の告知文です。
令和3年2月15日から,登記の申請や印鑑証明書の請求を行う際に,商業登記電子証明書だけでなく,マイナンバーカードに格納した公的個人認証サービスの電子証明書なども使用することができるようになります。
電子証明書は、ネット上の手続きで「本人が送った」ことを示す道具です。紙への押印と印影の証明まで、電子証明書一つで置き換えられるわけではありません。取引先の要望が紙の法人の印鑑証明書なら、電子証明書がいくつあっても答えにはならないのです。
電子契約や行政手続に使う商業登記電子証明書も、届出と無縁ではありません。紙で発行を申し込む場合、申請書には登記所に出した代表者の印鑑を押す、という条件を法務局の様式で確認できます。オンラインで申請する方法も別に用意されていて、こちらは申請人の電子署名を付けて送る仕組みです。発行・再発行など手続きごとに条件があるため、「電子証明書さえあれば、以後の申請はどの方法でも同じ」とは扱いません。利用する申請方法の公式案内をその都度確認します。
- 商業登記電子証明書
- 登記所が発行する、会社の代表者の電子的な証明書。電子契約や行政手続のオンライン申請に使う
- 公的個人認証の電子証明書
- 個人に発行され、マイナンバーカードへ格納される電子証明書。登記のオンライン申請などに使える
- 電子印鑑
- 印影の画像。電子署名法の電子署名とも、上の二つとも別物
印影の画像を貼る電子印鑑と、電子署名法にもとづく電子署名、登記所の電子証明書の違いは電子印鑑と電子署名の分類で詳しく比べています。
※6出典:法務局「電子証明書の発行申請書の様式」(法務局・確認日 2026年10月12日)
7届け出たあとの段取り:印鑑カードから法人の印鑑証明書まで

印鑑届書が受理されても、それだけでは印鑑証明書は取れません。次に「印鑑カード交付申請書」を出して、印鑑カードを受け取る必要があります。申請書には登記所に出したばかりの会社の印鑑を押します。届書と交付申請書を同じ日に持参すれば、法務局へ足を運ぶ回数を減らせます。受け取りまでの時間は、その日の窓口で聞くのが早道です。

2026年10月に確認した交付手数料は、2025年4月改定の料金です。1通を取得するときの金額は、紙の請求が500円、ネット請求・郵送受取が450円、ネット請求・窓口受取が420円。ネットの請求には対応する電子証明書を使います。マイナンバーカードの証明書を利用する方法もあります。とはいえ請求の主体は「印鑑提出者本人」で、窓口で受け取る日には印鑑カードを見せる決まりです。電子証明書を持っていても、届出とカードがなければ証明書を受け取る準備は整いません。
会社設立のあとで初めて取引先に「いつ出せますか」と聞かれたら、届出、カードの交付、証明書の請求という三段階があることを伝えておくと、話がこじれません。印鑑カードの詳しい扱いは印鑑カードの分類、請求のしかたは法人の印鑑証明書の分類にあります。
※7出典:法務省「登記手数料について」(法務省・確認日 2026年10月12日)
8まとめ:届け出なかった会社は「紙で単独」か「次の登記と同時」

オンライン申請で印鑑を届け出ずに会社設立をしても、必要に応じて後から届出を追加できます。要る場面が来たら、その時に会社の印鑑を法務局へ出せばよいのです。ただ、そのやり方には決まった形があります。
- 印鑑だけを単独で出すなら書面。管轄の法務局に持参か郵送
- 届書には会社の印鑑と代表者個人の実印。添付する本人の証明書は、作成から3か月を超えないもの
- 電子的に提出する方法は、登記のオンライン申請への同時添付に限る
- 電子証明書はオンラインの手続きで本人を示すもの。紙の法人の印鑑証明書の代わりにはならない
- 届出のあとは印鑑カードの交付を受けてから、印鑑証明書を請求する
見本太郎さんのケースなら、取引先を待たせている以上、変更登記を待つ理由はありません。会社設立のときに作らなかった代表者印を用意し、市区町村で個人の印鑑証明書を取り、届書と印鑑カード交付申請書を持って本店の管轄の法務局へ。証明書が手元に届くまでの日数を伝えれば、取引の段取りも組み直せます。
届書の細かい書き方は印鑑届出書と登録の分類に整理しました。書き込む内容が判断できなければ、本店を受け持つ法務局の窓口で尋ねてみてください。記入例を見せながら答えてもらえます。
※8出典:法務局「登記事項証明書(商業・法人登記)・印鑑証明書等の交付請求書の様式」(法務局・確認日 2026年10月12日)
「届出は無」で設立した会社の、次の一手
今すぐ印鑑証明書を求められていなくても、取引が変われば提出を頼まれる可能性は残ります。会社の印鑑を保管しているか、本店の管轄はどこの法務局か、代表者の個人の実印はどこにしまってあるか。この三つの答えをメモしておけば、頼まれた日から逆算して慌てずに動けます。

