会社設立に印鑑は必要か|オンライン申請なら届出が任意になる条件と、それでも作る理由

この記事で扱う印鑑
- 代表者印
- 印鑑届書
- 印鑑カード
- 印鑑証明書
読んでほしいのは、こんな方です
- 「会社設立に印鑑はもう要らない」と聞いて、本当に作らなくてよいのか迷っている人
- 登記をオンラインで申請するか、紙で出すかをまだ決めていない人
- 届出をしなかった場合に、あとで困る書類がどれかを把握しておきたい人
銀行印・角印・ゴム印をそろえるかどうかは、別の記事(種類と本数)で扱います。ここでは「法務局に届け出る印鑑」に絞ります。
まず印鑑を分けて考えます。法務局への提出対象は代表者印であり、銀行印・角印・ゴム印の作成は任意です。代表者印を登記所に提出すると、会社実印・登記所届出印として扱われます。また、道具としての印章と、押して紙に残った印影は別です。このページでは一般的な呼び名として「印鑑」を使いながら、どの印の提出が必要なのかを確かめます。
「会社設立に印鑑は不要になった」という言い方を、ここ数年よく見かけるようになりました。半分は当たっていて、半分は言い過ぎです。正確には、登記をオンラインで申請する場合に限って、法務局への印鑑の提出が任意になった、という話です。紙の申請書で登記をするなら、今も会社の印鑑を届け出る必要があります。
しかも「任意」は「作らなくてよい」とイコールでもありません。法人の印鑑証明書が、印鑑を登記所に届け出た人にしか発行されないからです。以下、義務の範囲と選択の範囲を、条文と法務省の案内の文言に沿って切り分けていきます。
会社設立で「印鑑が必要」と言われてきたのはなぜか

最初に用語を整理します。会社の印鑑のうち、法律にもとづいて登記所(法務局)に届け出るのは、代表取締役などの代表者が使う印鑑だけです。これを代表者印と呼び、届け出たものを指して「会社実印」「届出印」とも言います。三つの呼び名は、ほぼ同じはんこを別の角度から呼んだものだと考えてかまいません。
銀行印は口座を開く金融機関に届けるもの、角印やゴム印は社内の決まりで使うものです。法務局はこれらに関わりません。会社設立の準備で「印鑑が必要」と言われるとき、本当に法令の話になっているのは代表者印のことだけ、と頭に置いて読み進めてください。
- 印章
- はんこそのもの(印材に文字を彫ったもの)
- 印影
- 紙に押したときに残る跡。照合されるのはこちら
- 印鑑
- 本来は届け出た印影の控えのこと。今は印章も含めて広く使われる
以前は、会社の登記を申請する代表者は、申請書に押す印鑑をあらかじめ登記所に提出しなければなりませんでした。その義務を定めていた商業登記法の規定は現在「削除」となっており、提出は登記の申請のしかたによって必要になったりならなかったりする形に変わっています。
※1出典:商業登記法|e-Gov 法令検索(e-Gov(デジタル庁)・確認日 2026年10月12日)
オンライン申請なら印鑑の届出は任意:法務省の案内を原文で読む

転機は令和3年2月15日です。法務省は「オンラインによる印鑑の提出又は廃止の届出について」というページで、こう書いています。
令和3年2月15日から、登記の申請をオンラインで行う場合は、印鑑の提出が任意になりますが、代表者の印鑑証明書が必要などの理由で印鑑を提出される場合には、オンラインによる登記の申請と同時に行う場合に限り、オンラインにより行うことができるようになりました。
読み取れることは三つあります。一つ目は、任意になる条件が「登記の申請をオンラインで行う場合」だということ。二つ目は、印鑑証明書が要るなら届け出てよい、という道が残されていること。三つ目は、オンラインで届け出られるのは登記の申請と同時に行うときに限られることです。
Q. オンライン申請のあと、印鑑だけを別の日にオンラインで出せますか?
A. 法務省の説明によれば、ネット経由の印鑑の提出は登記の申請と同時に行う場合に限られています。印鑑の提出や廃止の届出だけを単独でオンラインで出すことはできない、という注意書きもあります。後日になったら、紙の届書で出す方法を確かめましょう。
Q. 任意を選んだら、会社の印鑑はまったく作らなくてよいのですか?
A. 必要な電子署名等を用意し、代理人への委任状も紙で提出しない方法なら、届出をしない選択ができます。ただ、法人口座の手続きや取引先との書類で会社の印を求められることは今もあり、届出とは別に銀行印や角印を用意するかは業務上の必要性で決めます。
※2出典:法務省「オンラインによる印鑑の提出又は廃止の届出について(商業・法人登記)」(法務省・確認日 2026年10月12日)
書面で申請するなら今も必要:会社設立で紙を選ぶときの扱い

同じページの【注意】欄には、紙で申請するケースの扱いが載っています。申請をネットで送る場合にも関係するため、先に確認しておきたい注意事項です。
書面申請(QRコード(二次元バーコード)付き書面申請を含む。)の場合や代理人による申請で委任状を書面により持参又は送付する場合は、従来どおり書面(紙)による印鑑の提出が必要です。
QRコード付きの書面申請は、申請用総合ソフトなどで入力内容を紙に出力し、その用紙を提出する手続きです。入力はパソコンでも、提出するのが紙なので扱いは書面申請になります。また、司法書士へ登記の代理申請を依頼し、委任状を紙で渡す場合も、印鑑の提出が必要な側に入ります。

紙で届け出るときに添えるもの
紙の印鑑届書では、新たに提出する会社の印影と、届出人を確認する押印欄を区別します。本人が通常の書面届出を行うときは個人の実印で押し、本人の証明書を添付する形です。商業登記規則9条5項の期間条件は、証明書の作成から3か月以内。法務局が公開する書式と記載例の注意事項に沿って準備します。
個人の印鑑証明書は住民登録のある市区町村で取るもので、法人の印鑑証明書とは窓口も仕組みも別です。設立時に何通そろえるかは必要書類を扱う記事の領域なので、登記申請と同時なら、申請書側へ添付した証明書を援用できる場合があります。重ねて追加取得する前に、届書の援用欄を確認してください。
会社設立の登記を紙で出すと決めた段階で、届け出る印鑑は必要な持ち物の一つになります。登記の申請書に押す印鑑と、届け出る印鑑は同じものを使うのが前提なので、申請書を作る前に代表者印を用意しておく、という順番は今も変わりません。
※3出典:法務省「オンラインによる印鑑の提出又は廃止の届出について(商業・法人登記)」(法務省・確認日 2026年10月12日)
届け出ないと法人の印鑑証明書が取れない

「任意なら出さなくていい」で終わらせない理由がここにあります。法人の印鑑証明書について、商業登記法12条の書きぶりはこうです。
次に掲げる者でその印鑑を登記所に提出した者は、手数料を納付して、その印鑑の証明書の交付を請求することができる。
つまり、印鑑を登記所に出していなければ、その会社の代表者印について印鑑証明書は発行されません。会社設立のあと、取引先との契約や不動産の手続き、金融機関の手続きなどで「法人の印鑑証明書を添えてください」と求められる場面は今も残っています。そのとき、届出をしていない会社は、あらためて印鑑を届け出るところから始めることになります。
印鑑証明書を取るには、印鑑の届出のあとに交付を受ける印鑑カードも必要です。窓口への請求や郵送請求では、交付申請書にカードを添付します。これは法務局の交付申請書の注意事項で確認できます。届出、カード、証明書の三つはつながった一本の線だと考えてください。

※4出典:法務局「登記事項証明書(商業・法人登記)・印鑑証明書等の交付請求書の様式」(法務局・確認日 2026年10月12日)
届け出る印鑑に決まりはあるか:大きさと「照合に適する」こと

法務局に出す会社の印鑑には、商業登記規則で条件が付いています。形や書体の指定はなく、決まっているのは大きさと、照合のしやすさの二点です。
印鑑の大きさは、辺の長さが一センチメートルの正方形に収まるもの又は辺の長さが三センチメートルの正方形に収まらないものであつてはならない。
言い換えると、1辺1cmの正方形にすっぽり入ってしまう小さな印鑑も、1辺3cmの正方形からはみ出す大きな印鑑も、届け出られないということです。同じ条の4項には「印鑑は、照合に適するものでなければならない。」ともあります。ゴム印のように変形しやすいものや、印影が欠けているものは避けておくのが無難です。

書体・素材・形について、法令は何も指定していません。丸でなく四角でも、篆書体でなく楷書体でも、規定の大きさに収まり照合に適していれば届け出ることはできます。ただし「照合に適する」かどうかは登記官が印影を見て判断するものなので、線が細すぎて欠けやすいものや、ゴムのように押すたびに形が変わる素材は避けるのが無難です。商業登記規則には、申請書などに押された印鑑が照合に適さないとき、登記官が改印などの措置を求められるという規定(9条の3)もあり、すり減りや欠けにも注意が要ります。
会社設立用の代表者印は直径18mm前後で作られることが多いようですが、これは慣習で、法令の決まりではありません。迷ったら、規定の範囲に入っていることだけ確かめれば足ります。
※5出典:商業登記規則|e-Gov 法令検索(e-Gov(デジタル庁)・確認日 2026年10月12日)
契約に押印は必要? 会社の印鑑と契約の効力

「法人の契約は会社の実印を押さないと無効」という思い込みも、印鑑の要否を迷わせる原因の一つです。内閣府・法務省・経済産業省が連名で出した「押印についてのQ&A」は、この点をこう述べています。
特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。
ここで言う押印は、会社の印鑑に限らず、契約書に押すはんこ全般のことです。法人どうしの取引でも、個人の契約でも考え方は同じだと整理されています。
契約は当事者の意思が合えば成り立ち、押印はその要件ではない、というのが出発点です。一方で、同じQ&Aは押印が文書の成立を示す証拠になりうることも説明しています。取引先が会社の印鑑と印鑑証明書をセットで求めるのは、後で「本当に会社として合意したのか」を確かめやすくするためだと受け止めるとわかりやすいでしょう。
電子契約を使う会社なら、紙の印鑑の出番は減ります。ただ、電子契約サービスの画面に表示される印影の画像(いわゆる電子印鑑)と、電子署名法にもとづく電子署名は別のものです。違いは電子印鑑と電子署名の分類で掘り下げています。
※6出典:内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」(令和2年6月19日)(内閣府・確認日 2026年10月12日)
結局どうする? 会社設立で届出を選ぶときの判断表

ここまでをまとめると、判断の軸は「登記をどう申請するか」と「法人の印鑑証明書を使う予定があるか」の二つに絞れます。費用面も見ておくと、令和7年4月1日以降の法人の印鑑証明書は、紙の請求で1通500円、ネットで請求し郵送受取なら450円、ネットで請求し窓口受取なら420円という料金表になっています(法務省の手数料ページ、2026年10月12日閲覧)。

| 状況 | 届出 | 理由 |
|---|---|---|
| 書面で登記申請 | 必要 | 法務省の案内で従来どおり必要とされている |
| オンライン申請・印鑑証明を使う | 届け出る | 印鑑を出した人しか印鑑証明書を請求できない |
| オンライン申請・当面使わない | 任意 | あとから届け出る道もあるが、手間が増える |
判断に迷う理由の多くは、「印鑑を作る費用」と「届け出る手間」を、設立前の忙しい時期に天秤にかけてしまうことにあります。けれど、法人の印鑑の代金は素材や本数によって幅があるとはいえ、会社設立の費用全体から見れば小さな割合にとどまるのが普通です。むしろ高くつくのは、契約の直前になって印鑑証明書が出せないと分かり、法務局に出向いて届出とカードの交付を待つ時間のほうでしょう。
オンラインで申請し、しばらく印鑑証明書を使う予定がない会社だけが、届出をしない選択を現実に検討できます。それ以外の会社では、代表者印を作って届け出ておくほうが、あとで取引が止まる心配を減らせます。
※7出典:法務省「登記手数料について」(法務省・確認日 2026年10月12日)
まとめ:会社設立の印鑑は「任意になった範囲」を正確に

会社設立で法務局に届け出る印鑑は、登記をオンラインで申請する場合に限って任意になりました。書面申請やQRコード付き書面申請、紙の委任状を使う代理申請では、今も代表者印の提出が必要です。そして任意の場合でも、法人の印鑑証明書を取りたいなら届け出ておかなければなりません。
- 届出の対象は代表者印(会社実印・届出印)だけ。銀行印・角印・ゴム印は会社の判断
- オンライン申請の場合、届け出るなら登記の申請と同時にオンラインで
- 1cm四方に入らない大きさで、3cm四方からはみ出さない印影が条件
- 法人の印鑑証明書には印鑑カードが必要。1通420〜500円。請求の方法で変わる(2026年10月時点の料金)
「不要」という見出しの記事を読んで安心する前に、自分の会社がどの申請方法を選ぶのか、設立後にどんな書類を求められそうか、紙に二行だけでも書いてみることをすすめます。答えはたいてい、その二つで決まります。
印鑑そのものの作り方や本数は、種類と本数の記事、代表者印と実印の記事に続きます。届け出たあとの手続きは、印鑑届出書と印鑑カードの記事を見てください。個別の判断がつかないときは、本店のある地域を受け持つ法務局か、司法書士へ、予定している申請方法と提出先を伝えて相談してください。
※8出典:法務省「商業・法人登記 Q&A」(法務省・確認日 2026年10月12日)
会社の印鑑を作るかどうかは、設立の日よりも、設立した後の取引で効いてきます。契約書、口座、不動産、補助金の申請書類。法人の印鑑証明書を出す場面が三つ思い浮かぶなら、届け出ておくほうが安心です。一つも浮かばない場合でも、取引先の求めで急に必要になったときに、どの法務局で何を出せばよいかだけはメモしておきましょう。

